【MBA授業まとめ⑩】Fintech
Fintechが先行する英国のビジネススクールに在籍しているからには、せっかくだから取っておくかと思い受けた授業。Fintechの主要トピック・トレンドについて体系的に理解するにはとても良い授業だった。
特にブロックチェーン、DLT、クリプトカレンシーの回は教授の熱もこもった良い授業だった。(残念ながらNFT周りの話はまだ授業内容にまでは体系的に落とし込めていなかったが、来年に向けて整理すると言っていた)
下記の項目でまとめています。あくまで自分の脳内目次用なので、書き方は雑です。
- 授業概要
- ケース・事例とキーワード
- 学び(ランダム)
- 感想・思い出
授業概要:
- Fintechの主要領域についてビジネスモデル、基本的な技術概要等をケースを使いながら学ぶ
- 新たなFintechサービスについてアイディア策定・発表
- 教授は Lil Mohan | London Business School Narayan Naik | London Business School
ケース・事例とキーワード:
- Compte-Nickel:ネオバンク・チャレンジャーバンク
- Lendig Club:P2Pレンディング
- Paytm:モバイルウォレット・ペイメント
- Trov:インシュアテック
学び(個人的に印象深い学びをランダムに羅列、授業で出てきた順番):
- スマホの登場、それに伴うユーザー行動の変化、既存プレイヤーの停滞、法規制の緩和等を追風としてFintechの領域が隆盛。2016年以降モバイルペイメントはYoYで50%+の成長率でデジタルペイメント全体では2021年ではグローバルで500兆円以上との予測。Fintechへの投資額も2018年以降グローバルで年間5兆円程度を維持。世界では75社のユニコーンが存在し、75社の評価額合計は30兆円程度
- Fintechセグメントマップ:ペイメント・トランスファ→P2Pウォレット・支払い、送金、ペイメントゲートウェイ、レンディング・ファイナンシング→クラウドファンディング、P2Pレンディング、ワーキングキャピタルファイナンシング、リテールバンク→デジタル・モバイルバンク、インフラ・規制→ブロックチェーン・DLT(分散型台帳技術)、銀行インフラ、レグテック、ファイナンシャルマネジメント→パーソナルファイナンス、マイクロインベスティング、その他...インシュアテック、クリプトカレンシーなど
- リテールバンキング:2017年以降投資額が急増した領域、2020年では約1億アカウントが開設されており、nubank, chime, revolutなど10社のユニコーンが存在。若い世代のみならず、ベビーブーム世代などでも利用者が増加しているが、若い世代程、ネットワーク内でのリファーラルでの利用開始が多く・トランザクションや詐欺等に銀行が責任を負うべき・高い透明性を維持すべきと考えている。最も頻繁に行われているアクションはアカウントのバランスチェック。発展途上国・移民の多い地域では従来銀行口座を持っていなかった層をターゲットとし成長。この領域に最初に取り組んだ仏のCompte-Nickelも移民・低所得層(underbanked, unbanked)をターゲットとして成長。成長のパスとしては、まずはDebit card, モバイルバンキング機能を提供し顧客基盤を確立、その顧客基盤に対し給与への早期アクセス、オーバードラフト、インベスト機能、ローンなどのプロダクトラインを拡大していく会社が多い
- クラウドファンディング:寄付型、リワード型、デット型、エクイティ型が存在。リワード型のKickstarterでは$20k-100kが成功率60%と最も高く、ジャンルでは映画・ビデオ、コミック、ファッションなどが45%と高い成功率を誇る。数が多いのは音楽、英語・ビデオ、書籍出版など。純粋な資金調達手段としてよりは、市場調査・マーケティング手段として使われる様になってきており、プラットフォームによっては調達目標中の一定割合のコミットメントを事前に得たプロジェクトのみ掲載出来る(条件が有利になる)
- P2Pレンディング:Peer to Peerの貸し付け仲介プラットフォーム。様々なリスクプロファイルの債務者を分割ポートフォリオ化し、債権者のリスク性向に合った貸し付けポートフォリオの作成を可能としている。実際の貸し付けは仲介のレンディングプラットフォームが提携する銀行により行われる。2018-2019年頃までは市場は成長をみせていたが、プラットフォームの債権者サイドの数が頭打ちになり米国では市場成長が停滞。平均リターンは7-8%であり個人投資家・債権者にとって相対的な魅力が低かった。実際Lending clubは2020年中旬には債権者の7割が金融機関になっており(もはやP2Pでは無い)、10月にはP2Pレンディングのサービスから撤退(Prosperなどの競合はサービス提供を継続中)教授の私見ではP2Pレンディング市場の今後の大幅成長は見込めないが、無担保融資・それを可能とするリスクプロファイル審査の精度向上というテーマ自体に関連する市場成長の余地はあると思っているとのこと。ただしP2Pレンディングはマーケットプレイスとしてのマルチプルがつく形で高いバリュエーションを維持していたのが、バランスシートからのレンディングとなると、P2Pレンディングと比較してバリュエーションは低くならざる負えない(余談だがLending clubはバリュエーション維持のためP2Pレンディング撤退後も”marketplace bank”というキーワードを押し出している)
- モバイルペイメント:クローズド(スタバ、アマゾンカードなど)、セミクローズド(Paytmなど)、セミオープン(グーグルペイなど)、オープン(ビザ、マスターカード)に分類される。Paytm, M-pesaなどのセミクローズド型はクレジットカードの浸透率・銀行口座保有率の低い発展途上国で急速に普及・換金の容易さが顧客獲得の鍵。インド市場ではPaytmはWhatsapp pay, GAFA系のサービスにチャレンジされており、今後市場シェアを維持できるかは不透明
- インシュアテック:比較ポータル、デジタルブローカー、ホワイトラベル、オンラインインシュランス、P2Pインシュランス、オンデマンドインシュランス、IoTインシュランス、ブロックチェーン・スマートコントラクト活用等が主要テーマ。この領域で有名なLemonade含めセールスチャネル・カスタマーエクスペリエンス・マーケティング等のイノベーションに留まっているというのが教授の私見。Defi インシュランスプロトコルのInsure(ただし現状ではポリシーガバナンスを行うDecentralized Autonomous Organizationへの参加率が低すぎて機能していない)や保険ポリシーのマーケットプレイスを作ろうとしていたfidentiaX(既にクローズ済、早すぎた?)等は本質的に新しい取り組みを行なっている
- ブロックチェーン:そもそも「正しく記録」するということは古代より取り組まれてきた人間の本質的な営みの1つ。ブロックチェーンはそれをネットワーク上のノードで分散、匿名多数決、記録追加のみ可能、時系列(タイムスタンプ)、実質的改竄不可能、プログラマブル(スマートコントラクト)で行うことを可能とした。各ブロックには取引を行う両者のID・アドレス、タイムスタンプ、取引内容、過去の取引等が記録されており、この情報がSha246などのハッシュ関数でハッシュ値化される。ハッシュ化は一方向のみ可能(ハッシュ値から元情報を再現することは実質不可能)、元情報の情報量に関わらず一定の情報量に集約、元情報に対してunique(1文字違いでもハッシュ値は大きく異なる)、高速処理可という点で優れている。新たなトランザクションが行われた際、ネットワークの参加者がトランザクションが正しいか検証を行いN+1個目のブロックのルートハッシュの計算を行い、更にProof of workの作業を経てNonce値の特定を行う。このNonce値を最初に特定した参加者がN+1個目のブロックのProof of workの勝者となりBitcoinやEtherなどの形態で報酬を得る。ビットコインでは最速で検証を行った参加者への報酬が用意されており(現状では6.25BTC/ブロック)、Etherではトランザクションを行う本人がトランザクションフィーを設定する。ブロックチェーンは誰がトランザクションの記録を行えるか&誰がその記録にアクセス出来るかで分類され、どちらも誰でも可能なものはパブリックブロックチェーン(暗号資産等)全て限定されているものはプライベートブロックチェーン(税金、中央銀行情報など)、誰でも書ける・アクセス限定は投票など、書けるのは限定・誰でもアクセス可能はサプライチェーン、企業の財務情報など
- ルートハッシュ→ブロック内にある各トランザクション情報をハッシュ値化し、それぞれ隣り合うトランザクションのハッシュ値をハッシュ化した値を求めることを繰り返し階層を上げていった最上のハッシュ値
- Proof of work→N+1個目のブロックにはN個目のブロックのハッシュ値、N+1個目のブロックのルートハッシュ、トランザクション内容等の情報に加えてNonce値という32ビットのランダムなナンバーが記録される。N+1個目のブロックで指定された特定のハッシュ値より小さくなるハッシュ値を吐き出すNonce値を求めるのがProof of workの作業
- クリプトグラフィー(暗号化):暗号化・復号に同じ鍵を使う対象鍵暗号と公開鍵・非公開鍵を使う非対称鍵暗号に分けられる。非対称鍵暗号では、内容は公開鍵を使って暗号化されるため秘密鍵の保有者のみ復号が可能≒秘密鍵の持ち主のみ内容を確認できる。一方で誰が暗号化を行ったかという情報は秘密鍵で暗号化されるため、公開鍵で復号が可能≒特定の人物が暗号化を行ったという本人性が確認できる。この組み合わせで本人性を担保しつつ特定人物のみ復号可能な暗号化された内容を送り合うことが可能となる。これら&ハッシュ化を組み合わせることで、元の情報のハッシュ化と秘密鍵での暗号化による本人性の確認や、対象鍵を非対称鍵で暗号化することなども可能
- クリプトカレンシー:ビットコインなどは要するに上記のブロックチェーンとクリプトグラフィーの組み合わせ。各トランザクションは非対称鍵暗号で行われ、その取引の一定の集合がブロックチェーン上のブロックに記録されていく。ビットコインでは未使用分のトランザクションアウトプット(Uspend Transaction Outputs)が記録されていく。ビットコインの総量は21千万BTCと決められており、採掘者(マイナー)への報酬は21万ブロックごと(約4年)に半減していく様に設定されている。当初は50BTC/ブロックだった報酬は今日では6.25/ブロックまで減っており、上限21千万BTCのうち約87%は既に発行済み
- ステーブルコイン:他資産の価値と連動するクリプトカレンシー。クリプトカレンシーの課題であるボラティリティーの高さは解決しようとする取り組み。法定通貨連動(Tether, USDC, Diem (旧Libra))、コモディティ連動(DGX, XAUT)、他クリプトカレンシー連動(Maker DAI)、アルゴリズム連動(Basis, Anchor)の4つのタイプが存在。
- スマートコントラクト:Etheriumなどのプログラマブルなブロックチェーンプロトコルを利用し、予め合意された改竄不可能なポリシーに従い第三者の介入無しにポリシーに準拠した契約を履行することを可能とする。Etheriumでは利用の手数料としてEtherがGasとして徴収される
- DLT 2.0:Directed Acyclic Graph, Hashgraph, Holochainなどの技術が登場している(授業では細かい説明は無し)
- テーマ別に触れた企業:クラウドファンディング→Kickstarter, INDIEGOGO, crowdcube, CircleUp 、ワーキングキャピタルファイナンス→Salary Finance, Steadypay, Wagestream, invoiceinterchange, pipe, afterpay, Klarna, affirm, Laybuy リテールバンキング→Compte Nickel, Monzo, Revolut, Starling Bank, N26, chime, current, Dave, SoFi, Stash, Varo, P2Pレンディング→Lending club, Prosper, モバイルウォレット・ペイメント→Paytm, M-pesa、インシュアテック→massup, ANIVO, Lemonade, Bought by Many, trov, metromile, ottonova, Haven, fidentiaX, insure ブロックチェーン・クリプトカレンシー→Bitcoin, Etherium, Ripple, Coinbase, Binance, Bitfinex, Hyperledger, R3 Corda, Dragonchain
感想・思い出:
以前にまとめたSocial Media and Internet Marketing と Hedge Fund を教えていた毒舌なLil Mohan氏とシニカル親父ギャグ連発のNarayan Naik氏による授業。この授業はブロックウィークという1日2コマ×5日連続の授業形態 & 今回もLil Mohan氏は西海岸から教えていたので5日連続で深夜0時~朝7時半の時間帯の勤務となっており、氏の体調が心配であった。
授業内容には大変満足しており、欧米の事例のみならずビジョンファンドが出資しておりPaypayの技術供与元となっているインドのPaytmのケースなどもあり面白かった。強いて言うなら、ゲストスピーカーがVCと研究者のみで事業家・起業家がいなかった点は残念だった。
授業の一環としてビジネスアイディアのプレゼンを行ったのだが、2つのチームは既にブレスト段階を超えて、実装を試み始めており刺激を受けた(元々起業に取り組んでいる人がそのアイディアをプレゼンしていた。去年の授業参加者も中東地域でのBuy Now Pay Laterで起業しているらしい)