【MBA授業まとめ⑥】Hedge Fund
ほぼ事前知識が無く授業についていくのに結構苦労したヘッジ・ファンドの授業。他の授業程深く理解出来た感は無く、なんとか授業内容を「覚えた」という感じで終わってしまった..
元々医者や軍人の同級生は、大半の授業で事前知識の少ない状態からきちんとキャッチアップしていると思うと、改めて尊敬の念を抱かざるおえない...
下記の項目でまとめています。あくまで自分の脳内目次用なので、書き方は雑です。
- 授業概要
- ケース・事例とキーワード
- 学び(ランダム)
- 感想・思い出
授業概要:
- ヘッジファンドの隆盛の背景、投資戦略と理論、オペレーショナルな論点等をケースと教授が過去に実施したデータ分析を基に学ぶ
- 教授は Narayan Naik | London Business School
ケース・事例とキーワード:
- Harvard Management:投資戦略、FoHF vs. マルチストラテジー、ポートフォリオポリシー、報酬体系
- Numeric Investors:ファンド選定、投資戦略とリスク、フィー体系、適正ファンドサイズ
学び(個人的に印象深い学びをランダムに羅列、授業で出てきた順番):
- ヘッジファンドの特徴:ノントラディショナルな投資手法、アセットクラス・地域横断投資、レバレッジの活用、何らかの手法によるヘッジング(リスク回避)実施(ロング・ショートなど)、基本的に富裕層・機関投資家向けの私募形式(故に一般の投資信託では採用出来ない投資手法の採用が可能)、LPストラクチャー、インセンティブフィー(1-3%の固定フィー+15-25%の成果報酬、ただしハードルレート・ハイウォーターマークを超えた場合のみ)
- ヘッジファンドのカテゴリ:ディレクショナル戦略→マクロ、ロング、ショート、ヘッジロングバイアス. オポチュニスティック戦略→キャピタルストラクチャアービトラージ、フィックスドインカムアービトラージ、リストラクチャリング、ロング・ショート、レラティブバリュー、イベントドリブン、マルチストラテジー
- トラディショナルな投資との差異:ヘッジファンドは....アセットクラス・レバレッジの制限僅少、デリバティブ活用、絶対リターンに基づく投資判断・報酬体系、市場との相関僅少、ファンドマネージャーの自ファンドへの投資、主要リスクはファンドマネージャー(vs. 市場)
- ヘッジファンドの運用総額は2020年Q3時点で350兆円程度と予測されており、これはミューチュアルファンド(オープンエンド型の投資信託)の7%程度。金融出身者が起業家的にスモールチームでハイリターンを追求出来るキャリアとして規制緩和・投資家のα需要を追風に発展
- なぜ投資家はヘッジファンドに投資をするのか?→ファンドマネージャーの投資技巧によるαを求めて投資実施・拡大。α>エキゾチックβ(特定の資産クラス・テーマへの投資に伴うβ)>オルタナティブβ(投資手法そのものに由来するβ)> β (市場)
- 実績のある巨大ファンドに資金が偏っており6.2%のファンドが69%の資金を運用。故に数としては小規模のファンドが多く、中央値のファンドは従業員10人以下・AUM50億円以下の規模で、5年以内に解散するファンドが大半
- ヘッジファンドのデータクオリティ:非常にクローズドな業界であり、データ開示は基本的に自主的に行われてるため、全体感の把握・ファンド間の評価が非常に難しい。データはCISDM、EUR, HFR、MSCI、TASSなどで一部公開されているがそもそも各媒体によりカバーしてるファンドが大きく異なり、加えてファンド共通の定義が無く、時差のあるデータが多く、成功しているファンドのものに偏っている(リターンが出ていないファンドほどデータ開示をしない & ファンドが解散するため)
- ロング・ショートの基本思想:市場変動の影響の中立化(相殺)を行い投資先選定の技巧(α)のみを抽出。そもそもエクイティリターン=リスクフリーレート+エクイティリスクプレミアムでエクイティリスクプレミアム=地理+産業+グロース/バリュー+企業規模+投資先選定技巧(α)なので、ロング・ショートにより投資先選定技巧(α)以外の市場リスクを相殺可能
- レラティブバリュー(ペアトレード)戦略:株価の動きに相関がある2つの株式を特定→両社の価格差が拡大した際に高い株式をショート・安い株式をロング→価格差が収束した際にポジションを解消
- リスクアービトラージ(M&A アービトラージ)戦略:M&A発生(見込み)のある企業の買い手・売り手企業でM&A成否の推移を見つつロング・ショートポジションを取る投資手法。ベアマーケットでは市場リターンに相関があるが、フラット・ブルマーケットでは市場リターンに対する相関は確認出来ない =リスク・リターン性向としては市場インデックスのアンカバード・プットオプションを売るのと類似
- フィックスドインカムアービトラージ戦略:債権の価格の歪みを狙った投資手法。更にスワップスプレッドアービトラージ、イールドカーブアービトラージ、モーゲージアービトラージ、ボラティリティーアービトラージに分類される。例:米国20年債@6.77%を保有・レポ市場でLibor -20bpで借入×Liborを保有・@6.94%で貸し出し元に支払い→Fixed rate で-17bpに対しFloating rateで+20bp。しかしながらテールリスクに弱い投資手法でありこの投資手法で有名だったLong Term Capital Managementは97年のアジア金融危機、98年のロシア金融危機で5,000億円以上の損を出した
- キャピタルストラクチャーアービトラージ:同一企業の普通株、優先株、劣後債、普通社債などの間に流動性の差異等で発生する価格の歪みを狙ってポジションを築く投資手法。一般的に株式は債権に対して流動性が高く価格変動が大きいため、その性質を利用
- 投資対象として紹介された具体的なアービトラージ例:コングロマリットと投資先・子会社、親子上場、複数市場上場、議決権有/無株式、国債(on the run/off the run)など
- エクイティベースのヘッジファンドのリスク性向:非線形のオプション類似のリスク・リターン性向(例としてはリスクアービトラージの箇所に記載の内容)を示す。リスク・リターンの要因分析を行う際は純粋な株式投資によるリスク・リターン(Buy and hold component)と投資戦略に基づくoption componentに分解することが必要
- 株価のミスプライシング要因:業界・企業固有×売り圧力→計画未達、M&Aの失敗、配当減少・停止、エクイティ関連の権限変更、業界・企業固有×買い手不在→リーガル関連の問題・訴訟、会計不正疑惑、事業の過度な複雑性、アナリスト・仲介業者不在、ガバナンス課題、衰退業界、ファンダメンタルズ以外の要因×売り圧力→ファンドの担当者変更、ファンド償還、税関連、ペアトレード、ポートフォリオリスク、インデックス変更、スペシャルシチュエーション、スピンオフ、ファンド内規定(PE ration制限等)、ファンダメンタルズ以外の要因×買い手不在→規模僅少、流動性高
- FoHFs vs マルチストラテジー(ファンドへの投資家の視点):FoHFsはフィーが二重で発生、ファンドマネージャー選定のコントローラビリティが無い、一度資金をアローケートした後のフレキシビリティが低い等のデメリットがあるが投資戦略間のリターンが相殺されない、ファンド選定のコストが低い、トップレベルのファンドマネージャーへのアクセスが可能、資金の塩漬け期間が短くて済む等のメリットがある。基本的にマルチストラテジーのメリット・デメリットは上述の裏返しとなるが、マルチストラテジーファンド内においても投資戦略間の柔軟な資金アロケートの変更は難しいことが多い。なぜなら資金アロケートの変更は各戦略担当者の報酬・評価と直結する話であり、頻繁な資金アロケートの変更はファンドマネージャーの離脱に繋がり得るため。よって、通常では資金比率の変更はファンドへの追加投資のアロケート比重によって実施される
- ヘッジファンドの報酬体系を決める論点:投資家の信頼・フェアネス→クローバック、適切なベンチマーク設定. ハイパフォーマーのリテンション→キャリーフォワード. ファンド全体最適の追求→一定リターン達成時のボーナス. 過剰なリスク追求の防止→インセンティブボーナスのキャップ
- 適正ファンドサイズ:ファンドマネジャーのフィー(2+20)が最大化されるのが理想的なファンドサイズという前提を置く。2%の固定フィーはAUMが大きくなればなるほど増えていく。対して20%の成果報酬は投資戦略、ファンドマネジャー・メンバー数、取引コスト、取引の価格影響(取引サイズが大きすぎるとそれ自体が価格の変動要因となる)等の点からファンドマネジャーにより最大化出来るファンドサイズが異なる。この合計としてファンドマネジャーのフィーが最大になるのが理論的な適正ファンドサイズ
- ヘッジファンド選定時に陥りやすい失敗:パフォーマンスのみに固執、マーケティング力と投資能力の混同、オペレーション・組織課題の見過ごし、流動性軽視、既存PFのDD不足、真のαとβの混同
- リキッド・オルタナティブの隆盛:ヘッジファンドの投資手法を使いつつ、投資家に高い流動性を提供するアセットクラスとして欧米で投資規模が増えている(欧州で2018年時点で50兆円程度)
- ヘッジファンドの複製・クローンの登場:ヘッジファンドのオルタナティブβ(投資手法そのものに由来するβ)をルールベースの取引で実現し、安いフィー・高い透明性と流動性を実現。真のαを持つファンドの特定、ポートフォリオ分散、ポートフォリオ見直し時の資金の一時預け先等の目的で既に活用されている
- There are old pilots and young bold pilots in the industry, but there are no "old & bold" pilots
- 他にも理論の説明、実際教授が過去に実施データ分析の紹介などが多くあったがここでは省略
感想・思い出:
授業のオークションでたまたま空きが出ていたので「ラッキー!」と思い衝動で取ってしまった授業。授業内容が結構難しく途中で挫けかけたが、VCで働く先輩に「最近はヘッジファンドの人と話す機会も増えているので、彼ら・彼女らのダイナミズム・ロジックをきちんと理解しておくのは大事だと思いますよ」という言葉を頂き、何とか最後まで頑張れた。私みたいにノリで取った人が多かった様で最後の授業はLiveで参加していたのは20-30人/80人中であった。
金融業・ファンド業という意味では、自分が関わろうと思っているベンチャーキャピタルに示唆がある内容も多く、特にαの追求・βの構築、適正なファンドサイズ・ファンドの人事課題などの論点は頭に留めておきたいと思っている。世界の他地域比較で日本のスタートアップ産業・そしてVCマネーが相対的に小さい・少ないということがよく言われるが、自分・ファンドのαの追求は勿論、産業・市場としてのβの構築にも目を向けて、見せ方も他アセットクラスを意識したグローバル水準に変えていかなければカネ(ヒト・モノ)が集まり産業として成長していくことには繋がらないということを実感した。日本のVC産業に関わるからには、こういう視点をきちんと心に留めておきたい。
他の雑多な思い出としては...
- かなり大きな資金を扱う機関投資家の方がスピーカーとして授業に参加した際に「どの様な要件を満たしていたら日本のVCに投資するか?」と聞いたら「最低数百億円規模(理想的には1000億円以上)のファンドサイズで継続的にリターンを出しているGPは日本のVCにいるのか?そのGPのαの源泉は何?そのGPのファンドの組織体制は?アセットクラスとしてのリターンのボラティリティは?こういうのが、とりあえずマストな要件だよ」と言われ「あぁやはりそういう視点で判断しているのだなぁ」と実感した
- ZOOM授業で教授の部屋に犬が入ってきた際に「この家で私に関心があるのは、この犬だけです」と言っていたのがツボだった。生徒には崇められるビジネススクールの教授も家では肩身の狭い思いをしている様である...
- 課題のグループメンバーの1人がなかなかのクセモノで自分の担当箇所について「問題文が間違っているはずだから、俺はこの課題に回答しない」・「俺はこの問題の解答が分からないから、白紙で提出しよう」と発言してきたり、他のメンバーがGoogle docで残したコメントをそのまま継ぎ接ぎでコピペして意味の通らない文章をつくって提出しようとするなどの事態が発生した。他の授業ではグループ課題も比較的スムーズに進むことが多かったので、その点は恵まれていたのかもしれないとこの人との出会いで実感した
- 最終試験はオンライン試験(故に当然持ち込み自由)にも関わらず、グループ課題とほぼ同じ問題がいくつか出題されていて、グループ課題の回答をコピペ・編集するだけで半分くらい回答出来てしまいそうであった...カンニング扱いになるのは嫌だったので一応ゼロから書き直したが。ルール的にはOKなのかもしれないが、もう少し真摯に準備して欲しいものである