【MBA授業まとめ⑪】Distressed Investing

 学生への人気具合も含めてバイアウト投資やベンチャー投資の授業と比べると渋めだった「ディストレスト投資」の授業についてまとめました。

 渋めの領域かつ課題も重めでしたが、授業のテーマが狭いかつ明確なためディストレスト投資について深く理解しやすく、かつスピーカーも銀行・投資家・経営者、弁護士と充実していた授業でした。

 

下記の項目でまとめています。あくまで自分の脳内目次用なので、書き方は雑です。

  • 授業概要
  • ケース・事例とキーワード
  • 学び(ランダム)
  • 感想・思い出

授業概要:

  1. ディストレスト投資の考え方、企業価値評価、各ステークホルダーの視点を踏まえた論点をケースベースで学ぶ
  2. ディストレスト投資の投資ケースの策定・プレゼン
  3. 教授は Christopher Hennessy | London Business School

ケース・事例とキーワード:

  1. IMO Carwash
  2. Pierre Foods
  3. Almatis
  4. Alon Avner

学び(個人的に印象深い学びをランダムに羅列、授業で出てきた順番):

  1. プライベートファンドのクレジット投資のストラテジーの1つとして成長している領域。Apollo, Blackstone, Oaktreeなどは数兆円規模のAUM。プライベートエクイティに対してプライベートデットの比率が相対的に増えており(20-25%程度)うち3割程度がディストレスト投資
  2. そもそもプライベートエクイティによりファイナンシャルレバレッジの過熱がディストレスト投資の機会増加へと繋がっている。借入の税務メリット、インセンティブ設計、PEプレイヤーの増加、実績あるPEファンド・金融機関の増加などを背景としてレバレッジは過熱してきている傾向
  3. またディストレスト企業がデットのリストラクチャリングを行った後も引き続きレバレッジは業界中央値より高いままであることが多い、ディストレスト状態を抜け出した後に再度同じ状況に陥る割合も1/4/~1/3と非常に高いことが当該領域への投資の更なる増加要因となっている
  4. ディストレスト”状態とは?:そもそも統一された厳格な定義は存在しないが、テクニカルデフォルト、格付け低下、株価下落、流動性低下、アナリストカバレッジの減少などが、デフォルト状態を示唆するサインとなる
  5. ディストレスト投資のテーマ:1) 分散保有されている債権・株式の全部・大半を購入し集中保有することでディストレストコストを下げ、その差分から利益を得る 2) 株主として再建・再編プロセスのスムーズな進展の可否に力を持ち、弁護士・監督機関の「合議文化」を利用し、株式の購入価値よりも高いリターンを得る 3) フルクラムセキュリティへの投資→再編後の株価が割安になるという前提に立ち、資本構成において再編後の株式の大半を保有する債権(・株式)に投資。会社の株主になることを狙い債権への投資を行うことからLoan to Own戦略と呼ばれる
  6. ディストレストのコスト:直接コスト→再建、組織再編等でディストレスト前の市場評価の3-4%、間接コスト→ブランド棄損、顧客・サプライヤー・従業員流出、資産のファイヤーセール、流動性低下、借入コスト上昇、NPVネガティブな投資増加(エージェンシー問題)、機会損失増加、再建計画・組織再編の部分最適化等で市場評価の10-20%
  7. ディストレストのプロセス:米国連邦倒産法では2つのステップが設定されておりチャプター11→チャプター7と移行する。チャプター11で組織再編・構造改革案の策定・取り組みが行われ、その後に最終手段としてチャプター7が適用され会社清算・倒産手続きが執り行われる。チャプター11適用前にシニアローン条件の再交渉、自助努力での再建計画の策定・実行は済まされていることが通例。チャプター11では債権者により回収は”automatic stay"となり事業は継続され、期間中に再建計画の提案・株主と債権者の合意が目指される。チャプター7では管財人の監督下で資産の競売にかけられ、債権者・株主の優先順位に基づき支払いが行われる。破産関連の経費、税金、未払い給与等は通常債権より優先される。ファイナンシャルディストレスト状態に陥った企業のうち、そもそも再建・再編を必要とせずにその状態を脱する企業もあり、一部のみが実際の再建・再編へと移行する。このうち自主的な再建・再編で業績を回復させる企業もあり、さらに一部のみが法的な破綻状態(チャプター11)の状態となる。その後もチャプター11の状態で再建を実現する企業、M&A等による他社との統合を実現する企業もあり、一部のみがチャプター7の破産・清算への移行する
  8. ディストレスト企業の企業価値計算:法的な再建・再編が必要な状態に陥らない確率×継続価値(going concern value)+チャプター11の状態に陥り再建を実現する確率×価値棄損分×再建後継続価値+チャプター7に陥る確率×清算価値。ゴーイングコンサーンバリューはWACCを利用したDCF法やAPV法で、破綻可能性は格付け、アルトマンZスコア、倒産距離等(企業価値と借入の比較)で、清算価値は帳簿価格をベースとして、算定される
  9. 実際の算定時の論点:EBITDAからの再建に伴うワンオフコストの除外、再建・再編後のEBIDAの回復水準(シクリカリティがある中でのサイクル中で最低・最高EBITDA水準を踏まえて算定)、マルチプル算出時の参考企業の経営状況(再建・再編が必要な企業は継続的には存在し得ないため、往々にして当該企業より良い経営状態のはず)、どのマルチプルを使用するか(ディストレスト企業は赤字であることも多く売上マルチプル以外の選択肢が無いことも多い)、シナリオ別企業価値の期待値vsシナリオ別の仮定の期待値を基に算出した企業価値の差異(イェンセンの不等式)
  10. ディストレスト投資における企業価値と債権者・株主の回復価値:EBITDA 100 レバレッジ 5x, 再建後企業価値 500, シニアローン 400, 劣後ローン 300の場合…ローン返済は無しで債権後の株式の75%(400)をシニアローンの債権者・25%(100)を劣後ローンの債権者が得る~シニアローン400償還, 劣後ローン100償還, 再建後株式の100%を劣後ローンの債権者が得るがレンジとして考えられ、各債権者・株主の議論により再建後企業価値と債務償還、株式分配の比率が決まる。債権者・株主の中で優先順位が低い程、再建後企業価値の想定を高く設定するインセンティブが働き、優先順位の高い債権者は再建後企業価値が低く見積もられていると考える場合は株式の保有・逆の場合はローンの償還を好む
  11. クリエーションマルチプル:債権者にとって価値償還がブレークイーブンとなる水準のマルチプル。当該債権者の視点では最低限クリエーションマルチプル以上の企業価値評価に合意することが目標となる
  12. 借入のキャパシティ:Debt/EV, Debt/EBITDA, EBITDA/Interest ratio等の推移・健全状態にある参考企業との比較、単純にキャッシュフロー計画を引き想定借入期間で返済が可能か等の視点で決定
  13. ディストレストに関連する法規制:米国は債権者に友好的な仕組みで英国は債務者にとって友好的な仕組み法体系となっている

感想・思い出:

約10カ月前に受けていた授業...時間の経過は早いものである...
当時ベンチャーキャピタル投資やバイアウト投資の勉強・就活をしている中で、企業のステージの推移を考えていった時に「ディストレスト投資」の分野も最低限の理解を得ておきたいなと思い取った授業。授業内容には概ね満足で当初の目的は達成出来た様に思う。

グループ課題が結構重く、ほぼ全ての課題で割とガッツリとモデルを組む必要があったのだが、同じチームのインド人が毎回率先してリードしてくれ「課題をめんどくさがる人が多いけど、自分の学びになる最高の機会だから僕は毎回学びのチャンスを貰えて感謝してるよ」的なことを言っていて、ハッとさせられた記憶がある。この「授業まとめ」も彼に学んだ精神で何とか続けている部分も多少はある気がする。この機会に改めて復習・授業での経験をトレースすることで、自分の血肉となる知識・知見を少しでも増やしたいと思っている。