【MBA授業まとめ⑭】Science of People in Organisation
必修授業の中で最も印象に残った授業の1つである組織行動・心理学の授業。
これまでまとめてきた選択授業とは異なり、必修の基礎的な内容ですが、自分にとっては目新しい内容が多かったので、備忘のためにまとめておこうと思います。
下記の項目でまとめています。あくまで自分の脳内目次用なので、書き方は雑です。
- 授業概要
- 学び(ランダム)
- 感想・思い出
授業概要:
- 個人・チーム・組織の3段階における人間心理・行動関連の主要トピックを学ぶ
- 教授は Daniel Effron | London Business School
学び(個人的に印象深い学びをランダムに羅列、授業で出てきた順番):
【個人】
動機付け:
- BUC(K)ET モデル:Belonging, Understanding, Control, Enhancing, Trustの5要素が満たされているのが、人間が精神的な所属を感じることが出来る組織の要素。Belonging→組織の他メンバーとの強固な関係性, Understanding→組織のコンテクスト・他者への理解, Control→組織における地位・地位のハンドリング, Enhancing→自分への自信, Trust→組織が属する世界への信頼・安心感
- 内発的動機と外発的動機:内発的動機は、その行為そのものを行うことを目的としている。その行為を行うこと自体が楽しい、達成感を得られるなど。一方で外発的動機は、何かしらの対価の獲得、社会的認知の獲得、罰を避けるためなどに行為を行う。内発的動機は過剰な外発的動機付け(金銭報酬など)により漸減・消失してしまうことがあり、外発的動機付けを行う場合には多寡・時期などの考慮が重要。また外部的動機付けで人の行動を促進させる場合、その動機付け要素を撤廃した場合に行動量が大幅に低下・停止することが知られている(例:金銭ボーナスで動機付けした場合、そのボーナスを撤廃すると働かなくなる。イスラエルの半導体工場の事例)
- ゴールセッティングセオリー:達成がぎりぎり可能な明確な目標を設定した方が、ベストを尽くすという姿勢で取り組むよりもパフォーマンスが良くなる(Virgin航空のパイロットの燃料の節約量の事例)
意思決定:
- システム1とシステム2:システム1は反射的な「速い思考」で努力を必要とせず無意識に行われる思考だが、経験則・認知バイアスに陥りやすい。一方でシステム2は努力・時間を必要とする「遅い」思考だが正確で精度が高い。意識しないとシステム1思考のみで対応することに陥る
- ポジティブ・イリュージョン:自己像のインフレ(自分は平均より優れている)、非現実的楽観主義(根拠は無いけど上手くいくさ)、コントロールの幻想(自分が他者・状況をコントロール出来る)、自己奉仕バイアス(成功は自分のお陰、失敗は環境が原因)など。全ての場面で悪い訳では無いが、根本的に錯覚であるため、現実との乖離があり、どこかのタイミングで現実の直視が必要。また明示的に発信する場合はレピュテーションリスクが伴う
- エスカレーションオブコミットメント:小さいコミットメントの積み上げから撤退ラインを見失い、明らかに行動を取るべきで無い状況でも、過剰な行動を取ってしまう状況。(≒サンクコストバイアス)自身の過去の意思決定を正当化したいという欲求、傲慢さ、衝動的判断、組織のモメンタムなどにより引き起こされる。避けるためには、第三者により意思決定推奨、事前の撤退ラインの明確化、事前の意思決定プロセスの設定などが挙げられる
- フレーミングの効果:事象に適用されるフレーミングにより、その事実への印象・意思決定が変化する。同じ事実を何か「得る」と整理する場合と何かを「失う」と整理する場合では「得る」整理の方が好まれる(プロスペクト理論)など。これを活用すると、悪い事実は一度に伝え、良い事実は細かく切り分けて伝える方が良い、リスクを取らせたい場合は「得る」整理を行い取らせたくない場合は「失う」整理を行う、などが挙げられる
- ヒューリスティック(メンタルショートカット):利用可能性・固着性(アンカリング)・代表性ヒューリスティックなどが挙げれらる。利用可能性→想起しやすい情報に優先的に頼って意思決定を行ってしまう。事象が最近の出来事、記憶が鮮明、印象深い場合などにより影響を受けやすくなる。固着性→根拠なき情報でも判断がアンカリングされてしまう。代表性→典型的であると思われる事項の発生確率を過大に評価して判断をしてしまう
- コンファメーション・バイアス:自身の立場を肯定する証拠ばかりを重視し、自身の立場を否定する証拠を軽視、曲解、無視する傾向。合意形成の欲求から自分に不都合な事実から目を背けてしまう状態(トンネル・ビジョン)
他者への影響
- システム1思考・システム2思考の2つのアプローチルートが存在。時間、認知、モチベーション、エネルギー等の制約がある場合はシステム1思考経由が有効。逆の場合はシステム2アプローチの方が有効な場合も
- 返報性:人間は相手からの贈与や妥協に対して、お返しをしなければならないいう心理を抱く。これは贈与や妥協が望んだものであろうとなかろうと、一定程度発生する。妥協する構造を作り出すために、あえて当初の提案・依頼を大きくするドア・イン・ザ・フェイス・テクニックなどはこの心理を利用したもの。克服のためには、そもそも贈与・妥協を受けいれない、組織として受け入れを制限するなどが有効
- コミットメント・一貫性:過去の選択やコミットメントと一貫性のある判断・行動を自然と取る心理。コミットメントの拘束力・形態と関わらず一定程度発生。フット・イン・ザ・ドア・テクニックはこの心理を使用したもの。克服のためには安易なコミットメントを避ける、第三者に意思決定を精査した貰うなどが有効
- ソーシャルプルーフ:他者行っている行動・判断に追随したくなる心理。利用例としては数の大きさ、変化幅、変化速度などを示すなど。克服のためには、数の基準の精査、情報に触れる前に自分のスタンスを明確化するなどが有効
- 希少性:希少な情報、機会、モノほど手に入れたくなる心理。2008年のコメ不足時には、過去に一切コメを購入したことが無い人までがコメの買い占めに走るという現象が米国で発生した。克服のためには、常に自分にとっての過不足を可能な限り認識しておく、判断を第三者に精査して貰うなどが有効
- 好意:自分が行為を抱く人からの依頼に対して、承認しがちな心理。好意の源泉は自分と共通のバックグラウンド、先に褒めてくれる、見た目が良い、ポジティブなモノを連想する場合、など
- 上記は悪用しようと思えばそれも可能だが、短期的なメリットと長期的な信頼構築のバランスを考え、倫理感を持って行動することを忘れてはならない
【チーム】
意思決定:
- 集団思考:不死身の幻想、アラートの曲解・無視、集団への信奉心、外部偏見、自集団中心性、均一性圧力と段階を経て過激化していく
- 多元的無知:集団の半数以上が特定の意見に反対であるにも関わらず、各個人は自分のみが反対意見を持っていると誤解し、反対意見を表明せずに、意見が肯定される状況
- 上記の克服のために自分がリーダーである場合は、明示的に反対意見を要求し報いる、反対意見を述べる担当者を役割として決める、非公開での意見収集、第三者による監督実施などが考えられる。自身がメンバーの一員である場合は、同意見の仲間を見つける、自分の意見を繰り返し述べる、システム1/システム2の双方へのアプローチをとるなどが考えられる
情報多様性:
- 情報多様性の見落とし:通常チームメンバーが複数になるとチームの情報総量は増え、多様性が増すがそれを見落としがちな状況が発生する。部分最適化したチーム構成、共通点の追求、合意形成への過剰期待、自身の意見へ過剰な自信などが要因
- 部分最適化したチーム構成:意識的に避けない限りチームは共通のバックグラウンドを持つメンバーで構成される
- 共通点の追求:意識的に避けない限りチームは互いの共通点、共通で把握している情報を追求し、少数のメンバーしか把握していない情報の追求を避ける傾向にある
- 合意形成への過剰期待:他社も自分と同じ意見を他者を持っているはずだという偏見傾向。自分の意見への過剰な自信の獲得、他社の真なる意見の無視に繋がる
- 自身の意見へ過剰な自信:根拠無しに自分の意見の方が他者の意見よりも優れている、正しいと思う傾向
- これらの克服のためには、意識的なチーム編成、ファシリテーターの任命、肯定・反対の役割分担、意識的なフレームワークの活用(フレームワークの抜けを明示化)などが有効
社会的多様性:
- 3つの効用:フェアネス→組織文化・レピュテーション、市場アクセス→情報多様性向上・より広い社会階層ネットワークへのアクセス・ローカル文化の理解、意思決定の質向上
- 社会的多様性のあるチームの特性と背景:各自がユニークに把握している情報の追求(vs. 共通点の追求)、反対意見の重視(vs. 集団思考)、難解・新規性の高い課題での高パフォーマンス、創造性の高さなど。これらの背景としては社会的多様性がシステム2思考を促し、かつソーシャル・プルーフの効果を下げていると考えられる
- 社会的多様性のあるチームのネガティブな点:コミュニケーションコストの増加、効率低下、単純・繰り返し業務での低パフォーマンス、満足度低下(?)...しかしながらこれらを上回る効用があることは明らかであり、これらのコストが発生することを事前にチーム含め十分に理解しておくことが必要
- 社会的多様性の効用をあげるために:偏見・システム1思考からの脱却が必要...長期的には教育が最も重要だが、それよりもプロセスでコントロールするのが有用。具体的には、メンバー選考・採用等においては候補者情報から社会的属性の情報を除くなど。チームワークにおいては、冒頭でチームメンバー間の差異の相互理解を深める時間を設ける、議論中に都度都度現状整理・議論の振り返りを行う(システム2思考の喚起)など
【組織】
- 3Ds:組織のネットワークの力はDiversity→誰がネットワークにいるか, Density→ネットワーク間の繋がりの濃さ, Depth→自分とネットワーク各自の繋がりの濃さの3つで規定される
- Diversity:情報・社会的多様性のセクションで記載の通り。多様性の軸としては、ジェンダー、民族、人種、年代・年齢、職能、組織、業界・産業など
- Density:密度が濃くメンバー間の繋がりに規則性が少ないクリーク型と密度が薄く特定の人物を中心としたブローカー型に大別される。ブローカー型は中心人物にとっては情報を集めやすく・統制を取りやすいが、ネットワーク自体の安定性は低い
- Depth:共有された時間・情報、親密さ等により濃淡が分かれる。必ずしも濃いネットワークの方が優れている分けでは無く、弱いネットワークも範囲が広がりやすい、構築・維持が容易という点で優れている
組織文化と組織変革:
- 組織文化の強弱は共通認識・密度の2軸で考えることが出来る。組織の構成員の多くが賛同し共通認識化しており立ち返りの頻度が多いのが、強い組織文化と言える
- 強い組織文化は、業績への好影響(Performance)、組織内の調整コストの低下(Coordination)、メンバーの組織・組織ゴールへのコミットメント強化(Commitment)の3点でメリットがある
- 組織変革のステップ:危機意識の醸成→改革をリードするチームの組成(各組織レイヤーのエースで可能な限り小規模なチーム構成)→改革ゴールのビジョン作成→ビジョンのコミュニケーション→行動への動機付けの仕組み化→小さいな成功の積み上げ→成果の見える化による更なる行動への動機付け→制度化
感想・思い出:
必修の基礎授業の1つですが、自分にとっては目新しい内容が多い授業でした。感覚的に感じている内容に、定義・フレームワークを得られ、教授の教え方も授業中のデモンストレーションを適度に活用するなどとても上手く、総合的にとても満足度の高い授業でした。
エスカレーションオブコミットメントの実験として授業中に変則オークションが行われたのですが、落札者の同級生(確か数万円で落札してしまっていた記憶があります)が「書面での契約では無いのでお金を払わない!」と若干キレ気味で主張していて、それにクラス中からブーイングが起こっていたのが印象的でした。